スズキコモリグモLycosa suzukii♀。
2018年3月、栃木にて。
河川敷や草地などの開けた環境に棲息する大型のクモ。
背甲に一対の極めて太い黒条が走る。
極東ロシア、中国、韓国、日本から知られ、
国内では北海道~九州にかけて広く分布する。
本種の学名について
本種に対して「Lycosa suzukii」という学名が初めて使われたのは片桐(鈴木)三樹著「蜘蛛」(長野県下伊那理科会)(1934)と言われており(八木沼1970)、原記載が不明なまま複数の文献でその学名が引用されてきた(e.g., 小松 1937)。また、命名者は岸田久吉氏とされていた。
その後、八木沼健夫氏は岸田氏から「既に記載は存在する」と伺ったため、「原色日本蜘蛛類大図鑑」(保育社, 1960)の中で雄の図と共に本種を掲載した。しかし、「存在する」とされていた岸田氏による記載は実際は存在しておらず、nomen nudum(裸名)とみなすのが妥当であった。結果として、八木沼(1960)が本種の原記載として扱われることとなった。
一方、八木沼氏は「原色図鑑」の記載は不十分であると判断し、後に正式な記載論文を執筆した(八木沼 1973)。上記の記載論文によれは、Holotypeは雌であり、タイプ産地は岡山県真庭郡八東束村とされている。なお、World Spider Catalog上では八木沼1960が原記載として認識されている。
本種の希少性について
大型種であり、なおかつ河川敷や草地などの開けた環境を要求すると考えられるため、開発などによる生息適地減少に伴い個体数も減少している可能性があるが、そもそも多産地が稀であり、個体数変動を追うことが難しいため、現時点では本種の減少に関する定量的なデータは存在しない(八木沼 1974では「長野・東京では減少の傾向にあるとか」と記述されているのみ)。
採集例の乏しさ及び生息環境の特性を根拠とし、レッドリスト情報不足種(DD)に指定している都道府県もある(例えば埼玉県・東京都)。
また、地域によっては安定した個体群が存在するものの、単に本種の存在に注目する者が稀であったが故に発見を免れてきた可能性も考えられる。近年は北海道~本州の複数個所で本種の採集例が報告されており、目撃情報も増えつつある。今後、本種の基礎生態や分布に関する更なる情報の蓄積を期待したい。
スズキコモリグモ♂。2018年3月、栃木にて。
スズキコモリグモ♂。
2018年9月に北海道で採集した個体が同年11月に成熟。
同個体正面図。
スズキコモリグモ幼体。
2018年9月、北海道にて。
成体に比べると歩脚色が明るい傾向にあるが、背甲の黒条が明瞭な点は共通している。
飼育下では簡素な棚網を張ることが確認できた。
引用文献
小松敏宏 1937. スズキドクグモの観察記. Acta Arachnol., 2: 2-5.
埼玉県レッドデータブック動物編2018. (9)クモ目: 336-343.
レッドデータブック東京. online at =https://tokyo-rdb.jp/rdbtoha.html
八木沼健夫 1960. 原色日本蜘蛛類大図鑑. 保育社. 186pp.
八木沼健夫 1970 疑問種の学名の取扱いかた. Atypus, 54: 16.
八木沼健夫 1973. スズキコモリグモの記載. Acta Arachnol., 25: 16-22.
World Spider Catalog 2020. World Spider Catalog. Version 21.5. Natural History Museum Bern, online at http://wsc.nmbe.ch, accessed on 2020/12/6. doi: 10.24436/2
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