2017年12月23日土曜日

キクメハシリグモ



キクメハシリグモDolomedes japonicus♀。
2017年4月、茨城にて。

キクメハシリグモ♀。2017年4月、茨城にて。

キクメハシリグモ♀。2017年9月、茨城にて。

潜水する♀。2016年5月、茨城にて。

キクメハシリグモ♂。2016年5月、茨城にて。

キクメハシリグモ幼体。2017年9月、茨城にて。

本種の記載および種同定に関する経緯について
Dolomedes japonicusは佐賀県産の標本(1♂)に基づき、ドイツ人研究者Bosenberg とStrandによって記載されたクモである。原記載には、「頭胸部前方の両側部に白色の縦縞が広く入る」「触肢が明らかにD.sulfureus(イオウイロハシリグモ)と異なる」などの記述があり、触肢側面図と腹部背面図(モノクロ)が掲載されている。したがって、原記載の時点では、♂の形態は比較的詳細に記載されているが(ただし全形図や触肢腹面図は欠く)、♀の形態はほぼ不明であった。(※ドイツのSenckenberg Museumにシンタイプとして1♂成体1幼体が収蔵されている)

Bosenbergらの記載から30年後、岸田久吉氏により、Dolomedes stellatus Kishida 1936が記載された。より正確には、岸田氏は1912年にArachnoという雑誌の1号(入手困難)にて、本種を命名していたようである。そのため、Kishida (1936)においては♀の外部形態図の掲載および「圖のごとく背甲の色彩が特別であることから、一見して他種と分かつことが出来る」との簡素な記載のみが認められる。ちなみに、種小名は「星で飾った、輝く」の意。和名の「菊目」は背甲の模様に因む。
その後、韓国から本種が発見され、♂がはじめて記載される (Paik 1969)。さらに中国からも発見され、本種が東アジアに広く分布していることが明らかになる。これらの研究は全て検討標本をD. stellatusと同定しているため、もっぱら岸田氏の文献に従っており、Bosenberg & Strand 1906は未参照だったと考えられる。

日本では、D. stellatusの記載後、玉寺(1937)による宮崎県での記録、安念(1940)による富山の記録、八木沼(1950)による大阪の記録など、いくつかの報告がなされた。しかし、その後しばらく、本種の記録は途絶えることとなる。ところが、2006、7年頃から、「日本蜘蛛学会ニュースレター 遊絲」に、本種(D. stellatus)の記録が相次いで報告されるようになる。仲條(2008)は、キクメハシリグモの存在を周知されるための報文の中で、「キクメハシリグモは記載されたから長い間、日本ではその存在を忘れられていたクモである」「アオグロハシリグモに誤同定されてきた」と述べている。キクメハシリグモは当時刊行されていた写真図鑑に掲載されていなかったため、野外で本種を見た人々は「これほど大型の種が図鑑に載っていないはずはない」と考え、アオグロハシリグモの変異として認識したのだ、という考えだ。
そして、仲條(2008)と同年、日本産ハシリグモ属の分類学的再検討を行った研究(Tanikawa & Miyashita 2008)が出版された。この研究では、ドイツのSenckenberg Museumに収蔵されていたD. japonicus Bosenberg & Strand 1906の♂成体の標本が再検査されたことにより、本種とD. stellatus Kishida 1936は形態的に区別できないことが確認され、後者はD. japonicusの新参シノニムであると判断された。
これらの研究により、日本産ハシリグモ属の分類学的混乱が解消され、多くの研究者や愛好家がキクメハシリグモを正しく同定できるようになった。生態写真や生息環境を詳しく解説した仲條(2008)がその助けになったことは言うまでもない。現在では、写真図鑑にも本種が掲載されているため、アオグロハシリグモと誤同定してしまう心配はないだろう。


引用文献
Bösenberg, W. & Strand, E. (1906). Japanische Spinnen. Abhandlungen der Senckenbergischen Naturforschenden Gesellschaft 30: 93-422.

Kishida, K. (1936). A synopsis of the Japanese spiders of the genus Dolomedes. Acta Arachnologica 1(4): 114-127.

Paik, K. Y. (1969). The Pisauridae of Korea. Educational Journal of the Teacher's College Kyungpook National University 10: 28-66.

Tanikawa, A. & Miyashita, T. (2008). A revision of Japanese spiders of the genus Dolomedes (Araneae: Pisauridae) with its phylogeny based on mt-DNA. Acta Arachnologica 57: 19-35.

安念嘉一 1940. 富山県産蜘蛛類目録(予報). Acta Arachnol., 5:86-91
新海 明・谷川明男 2006. 採集情報. 遊絲, 19:15-17.
新海 明・谷川明男 2007. 採集情報. 遊絲, 21:14-15.
玉寺幸寛 1937. 宮崎地方蜘蛛目録(2). Acta Arachnol., 2:22-26.
仲條竜太 2008. このクモを探せ No. 3, キクメハシリグモ. Kishidaia, 93: 49-51.
八木沼健夫 1950. 大阪府産蜘蛛類(1). クモの研究, (1): 1-18.











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