2020年4月5日日曜日

ジョロウグモ幼体の前疣には大瓶状腺吐糸管が「2本」ある④

◇まとめ

以上から,「成長に伴う大瓶状腺吐糸管数の変化」という現象は,既に様々な種において観察・記載されていることが明らかとなった.ただし,ジョロウグモT. clavataにおける観察事例は確認できなかったため,本観察事例が初と思われる(報告済).また,本記事では触れなかったが,大瓶状腺糸以外の吐糸管でも同様の研究が進んでいるようである.



最後に,1°や2°の機能を理解した状態で,クモの脱皮をもう一度見直してみたい.

例えば下の写真はイシサワオニグモが飼育下で脱皮し成体になった様子だが,脱皮殻と基質を繋ぎとめている糸は2°由来,そして脱皮殻とクモの体を繋いでいる糸は1°由来であるとわかる.そして恐らく,成体の前疣には1°とnubbin,tartiporeが確認できることだろう.


 


安全に脱皮するためには,足場の形成が必要不可欠だ.しかし,クモは脱皮動物でもある.脱皮前にはクチクラが分離してしまう.そうなっては糸が紡げない.適切な表現でないことは承知の上だが,「この紡糸と脱皮のジレンマに対し,1°と2°という2種類の吐糸管を用意することで対処した」と表現したくなる.まさか「ジョロウグモ幼体の2本の吐糸管」の背後にこのようなストーリを想像できるとは,当初は思ってもみなかったことである.


◇追記1

この内容を発表した半年後,日本蜘蛛学会学会誌「Acta Arachnologica」に掲載されている和文総説に,Townley et al. 2013が引用されていることに気づいた (本多 2016).本コラムよりも分かりやすく簡潔にまとめられているので, 是非そちらも参照していただきたい.

◇追記2

本コラムの内容に関係する記述をもう一点発見した.宮下直(編)クモの生物学. 東京大学出版会の第5章に「瓶状腺のそばには退化した瓶状腺の出糸管がある. これは幼体時には, 糸を生産していたものであるが, 成体では退化したものである」と書かれている(吉田 2000). 「退化した出糸管」とは言うまでもなくnubbinのことである. ただし, こちらの文献では脱皮と関連した糸疣数変化のメカニズムに関しては言及されていない.






引用文献

Coddington JA. 1989. Spinneret silk spigot morphology: evidence for the monophyly of orbweaving spiders, Cyrtophorinae (Araneidae), and the group Theridiidae plus Nesticidae. J. Arachnol., 17: 71-95.

Dolejs, P., Buchar J., Kubcová L. and Smrz J. 2014. Developmental changes in the spinning 
apparatus over the life cycle of wolf spiders (Araneae: Lycosidae). Invertebr. Biol., 133: 281-297. 

本多佳子 2016. クモの脱皮とホルモン. Acta Arachnol., 65(1): 55-62.

Moon MJ. 2012. Organization of the spinnerets and spigots in the orb web spider, Argiope bruennichi (Araneae: Araneidae). Entomol. Res., 42: 85-93. 
Shear WA., Palmer JM., Coddington JA. and Bonamo PM. 1989. A Devonian Spinneret: Early Evidence of Spiders and Silk Use. Science, 246: 479-481. 

Townley MA., Tillinghast EK., Cherim NA. 1993. Moult-Related Changes in Ampullate Silk Glands Morphology and Usage in the Araneid Spider Araneus cavaticus. Rhil. Trans. R. Soc. Lond. B, 340: 25-38. 

Townley MA and Tillinghast EK 2003. On the use of ampullate gland silks by wolf spiders (Araneae, Lycosidae) for attaching the egg sac to the spinnerets and a proposal for defining nubbin and tartipores. J. Arachnol., 31: 209-245. 

Townley MA and Tillinghast EK 2009. Developmental changes in spider spinning fields: a comparison between Mimetus and Araneus (Araneae: Mimetidae, Araneidae). Biol. J. Linn. Soc., 2009, 98, 343–383. 

Townley MA and Harms D. 2017. Comparative study of spinning field development in two species of araneophagic spiders (Araneae, Mimetidae, Australomimetus). Evol. Syst. 1, 47–75.

吉田 真. 2000. 糸腺と糸. 95-115. In: 宮下直(編)クモの生物学. 東京大学出版会. 267pp.
Yu. L. and J. A. Coddington. 1990. Ontogenetic changes in the spinning fields of Nuctenea cornuta and Neoscona theisi (Araneae. Araneidae). J . Arachnol., 18: 331-345.


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